せんみつ

物語を思いついたら書いていきます。

猿の内閣

ニュースでは国会の様子が映されている。総理大臣の席に座っているのは猿だ。

そもそもは選挙権の拡大からだ。地球環境をどのように維持していくのかが政治における大きな課題となったとき、地球に住んでいるのは人間だけでない、他の生物にも選挙権を拡大するべきとの議論となった。

生物全てとなると、ウィルスも対象かとか、議論は白熱したが、第一段階として哺乳類に選挙権を与え、その様子を見守って更に拡大するか議論することとなった。

ということで、全哺乳類に選挙権があるが、結果として、投票できるだけの能力を持つのは猿だけであった。(猿が投票できるようになるまでには、動物保護団体の多大なる努力があったが。)

結果、猿が国会議員の議席過半数を占めることとなった。猿は統一候補を立て、全ての猿がその候補に投票したのだが、人間はいくつかの政党に分かれているうえ、人間の投票率が低いことが原因であった。

かくして猿は総理大臣となった。猿の求めることは2点だけであった。動物虐待を無くすこと、動物が住むことのできる自然を守ること。それ以外については、人間どうしで決めてくれというスタンスであった。

総理大臣を除く内閣、つまり各省庁の大臣は、人間のアドバイスを受け、専門家を任命した。民間人も多く指名され、当選回数が多いからと政治家が順番で大臣になることは無くなった。そして、大臣が不祥事を起こすと、すぐさま更迭した。人間の政治家のように、かばい合うことは無かった。

このため、政策は理論に則った長期的な視点で立案され、実行されていった。大臣が思い込みや思いつきや利権で政策を進めることは無くなった。官僚は国のための仕事に集中でき、生き生きと働くようになった。

ごく一部の人は、猿が首相であることは人間の尊厳に関わるとデモを行っている。けれども、彼らに同調する人はほぼいない。

ほとんどの人は理解している。これまで、人間が猿の尊厳を傷つけることはあっても、猿が人間の尊厳を傷つけたことはないと。