せんみつ

物語を思いついたら書いていきます。

健康のために

健康管理アプリが新しくなり、スマートウォッチのデータから、自分の寿命が計算できるようになった。

もちろん100%正確ではないとの断りがついているが、健康診断データを入力し、毎日の血圧、体温、脈拍、睡眠時間や運動量のデータを蓄積していくことで、予測寿命が表示されるようになった。そして予測寿命は、日々更新されていく。

おかげで健康に対する意識が高まった。適度な運動、適切な睡眠時間を意識するようになった。少しずつだが、予測寿命は伸びていくことが励みにもなった。

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運動の効果だろうか。体型も少し変わったような気がする。脂肪が減ったようだ。予測寿命も若干だが長くなった。

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運動が習慣化し、生活のリズムが整ってしばらく経つ。予測寿命がなかなか伸びなくなった。頭打ちなのだろうか。しかしもっと伸ばしたいと欲は出る。他に何をすればいいのだろうか。

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最近、仕事が忙しく残業が続いている。食事も不規則だし、睡眠時間も減っている。予測寿命がやや短くなった。

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相変わらず忙しい。運動も途切れがちになっている。予測寿命は短くなり続けている。そこまで大幅に短くなった訳でないが、少しでも早死にすると思うと恐怖でしかない。

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上司とケンカした。寿命が短くなるから残業はしないと言った。最初は上司も会社の都合だからと穏やかに説得してきたが、会社は従業員の命を削る気なのかと言ったらケンカになった。社員は会社に命を捧げる必要は無い。断じて無い。そんなことがあってはいけない。

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アプリの数字を見せ、仕事が忙しくなってからどれだけ寿命が短くなったか上司に見せた。上司はどこまで信用できるのかと言ったが、顔が引きつっていた。同僚も落ち着かない様子だった。

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上司が何と言おうと、残業はせず、定時に帰ることにした。おかげで予測寿命は減少から横ばいになった。

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運動と規則正しい生活に戻したら、予測寿命もまた伸びてきた。仕事は滞っているが気にしない。自分の健康が最優先だ。

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どうも上司も同僚も健康管理アプリを使い始めたようだ。残業を断る同僚が増えてきた。上司も残業を命じなくなり、早く帰るようになった。

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職場の雰囲気が明るい。みんな定時に帰り、運動し、十分な睡眠を取っているから精神も安定しているのだろう。

うちの職場だけでない。会社全体がそうだし、他の会社も同様のようだ。明らかに仕事量は減っている、というか皆で減らした。日本全体、前より働かなくなった。けれども不都合は生じていない。

困っている表情をしている人も少しいる。管理職の一部だ。居心地が良くないらしい。必要な仕事だけに絞り込んだら、全く仕事が無くなってしまったのだから。